ダニガン「ウォーゲームハンドブック」

James F. Dunnigan "THE COMPLETE WARGAMES HANDBOOK: How To Play, Design And Find Them" (1980)
ジェームス・ダニガン(ジム・ダニガン)「ウォーゲーム ハンドブック」鈴木正一訳 (1982, ホビージャパン刊)

ジェームズ・ダニガン:
1943年ニューヨーク州生。SPI(Simulations Publications, Inc)創設者。
ボード・ウォーゲームの分野における最も重要なゲームデザイナー(「の一人」という但し書きはおそらく不要)。
代表作「パンツァーブリッツ」(1970)は30万部を売り上げたとのこと。


ボード・ウォーゲームというものがどのようなゲームなのか、一般向けに説明する書籍。当然、プロパガンダ的な要素も少なからず存在する。
ダニガン自身は(本書でも触れられている通り)マルチゲームのデザインも行っているのだが、本書ではあくまでも、へクスマップと戦闘比で構成されたクラシカルな二人用ボード・ウォーゲームが専ら取り上げられている。遊び方・作り方の解説においても、徹頭徹尾、戦場のプレイアブルな再現(あるいは戦場におけるifの実行)に興味の中心が向けられている。
(ゲームシステム変遷の観点からはより重要なジャンルである)SFシミュレーションゲームは軽く触れられる程度でほぼ無視されており(RPGのほうがむしろ「異質なゲーム」であることから言及の量が多い)、ミニチュアゲームについても同様に無視されている。
ファミリーストラテジー分野のゲームデザインと比較し、力点の違いに異文化を感じる楽しみ方はできるだろう。
ウォーゲームの売上個数の変遷や、SPI社アンケートによるウォーゲーマーの実態など、興味深い数字がいくつも載せられており、その意味で歴史資料としての価値もある。


はじめに 20
 ホビージャパンによるまえがき。
1. ウォーゲームとは何か 23
 ウォーゲームとはどういうゲームであるか、サンプルゲーム「メッツ進撃作戦」の開幕2ターンのリプレイと共に紹介される。
 ウォーゲームの目的が対象のリアルな再現にあり、それが歴史と科学をベースにしている、と主張している。
2. プレイのABC 49
・ウォーゲームの基礎 51
 1章の実質的な続きで、当時のウォーゲームの基本的な道具立てが説明され、初心者用のちょっとしたTipsが紹介される。
 ここでは、ウォーゲームをプレイする理由として、(ふつうの意味でゲームを楽しむのと同等以上に)「知識を得る」「自分の興味あるコンフリクトを体験する」ことが強調される。
・劣勢プレイヤーの選択 58
 ウォーゲームにおいて、2プレイヤーの条件がイーブンではないことについて説明される。
 【劣勢な側を演じた方が、おもしろい場合が多いようである。第一、負けてもともとなのだし、偶然勝った時は実に気分がいい】
・ゲームの分析 62
 ゲームの動きを把握するためのアプローチとして、分析を行うべきである、と書かれている。両軍の駒の戦闘力合計、地の利など。
 (ただし、それほど具体性が強いわけではない)
・戦略と戦術 65
 ヘックスゲームを前提として、良い防御陣形の張り方について説明される。
 (良い防御陣形が互いに張られた結果としてゲームが膠着しがちであるというゲームデザイン上の問題点が語られる。
  現実の戦闘において勝者が生まれるのは、往々にして初期条件や用兵上の制約、加えて不合理な判断によるものである、とも)
・充実したプレイの重要性 71
 ウォーゲームは設定の多様性のためチェスと違って「ダルな」ゲームが滅多に発生せず、
 またチェスの無味乾燥な分析と違ってウォーゲームの分析は歴史分析に近い楽しいことだ、との(現在の視点から見ればかなり怪しい)主張が行われる。
・ウォーゲームのテクニック 74
 典型的なウォーゲームにおける各種ユニットの配置の定石が簡単に示される。
・テンポと誘導 76
 プレイのテンポを上げることのゲーム上のメリット(目論見が相手から見てわからなくなること)、その他心理的誘導の効果の可能性について触れられている。
・多人数ゲームの問題点 79
 2人ゲームとマルチゲームの構造が全く異なるものであることが示される。
 また、ロールプレイングゲームについても軽く触れられている(個性をビルドするゲーム、と捉えている)。
 第4章「人はなぜウォーゲームをするか」の項で、著者は相互作用の観点から、ゲームを「1/2人用ゲーム」「多人数ゲーム」「RPG」に分けている。
・対戦相手のいないとき 81
 ウォーゲームはソロプレイヤーが多く、その理由として「相手がいない」「相手の存在が邪魔だ」というものが挙げられている。
 ソロプレイの方法について簡単に述べられる。
・郵便によるプレイ 83
 郵便プレイがどのような形で行われているか(ゲームの状態をどのようにして保存しているか)。
 【郵便によるプレイに熱心なゲーマーは全体の二パーセント】
・チームプレイの勧め 84
 ビッグゲームのチームプレイについて(チームのプレイヤー毎に受け持ち区域を決めて遊ぶ)。
 【十年前は、ウォーゲームもウォーゲーマーも、まだずっと若かった。(省略)置きっぱなしにしておけるだけの場所を持ったゲーマーなどは数えるほどだった】
・ウォーゲーム用語集 86
 ウォーゲームに良く登場する用語についての解説。
3. コンピュータとウォーゲーム 115
 メインフレームを用いたOR的手法による戦争解析に対する懐疑の表明と、
 マイコン(PC)によるウォーゲーム実装への期待(陸軍学校用に開発したボードウォーゲームが、高評価にも関わらず煩雑さから不採用となった例を交えて)。
 (TRS-80用のフライトシムの実例が紹介されている…が、遊びやすいようには見えない)
 また、RPGやアドベンチャー用のプラットフォームとしてもマイコンが望ましいものである旨が述べられている。
4. 戦いの歴史 141
・人はなぜウォーゲームをするか(そしてまた、そこには何があるか) 143
 【シミュレーション・ゲームの本質とは、既に結果のわかっている歴史的な事件に、適切な範囲内でいろいろな可能性を付与してやることにある。】
 ウォーゲームの基本要素として、地理、部隊、シナリオ、およびその動学が挙げられている。
 相互作用の面からゲームを1-2人用/マルチ/RPGに分類した後、別の分類として、空戦/海戦/陸戦、戦術/作戦/戦略、そして扱う時代について述べ、
 次項目以降の、各時代における軍事的特徴に進んでいく。
・古代 157
 前期古代(紀元前1000年頃まで)における戦場において食料の調達が可能であることの重要性、情報伝達の不可能性、防御側の優位性、士気の致命的な重要性。
 戦争は両者の合意によってのみ開始される(片方が合意しない場合、戦闘隊形が形成されず、戦力同士が衝突する構図になり得ないため)
 【チェスなどは、この時代の戦術的戦いをかなり正確に写しとっている】
 アッシリア人・ギリシャ人、ついでローマ人の登場による戦略的可能性の拡大(弓を撃つ騎兵、正規軍、虐殺、築城)
・暗黒時代 164
 東洋からのあぶみの伝来による、戦法の変化。加えて、西欧の組織的社会の壊滅。大規模戦闘の減少。
・ルネサンス時代 166
 石弓(クロスボウ)の普及。火薬を用いた大砲の導入により、城砦の重要性が低下。欧州内での断続的戦争から集権政府の確立へ。
 黒死病と宗教上の変動により、大規模戦争は多くなかった。
・三十年戦争・ナポレオン登場以前 169 
 火器武装率の上昇。銃剣の導入。
 フリードリッヒ大王による、統制された行進の導入、これによる奇襲戦法の登場。
 戦力への財源集中を目的とした、政府権力の増大。
 前ナポレオン時代を題材としたゲームが少ない、との主張。
・ナポレオン戦争 171
 指揮官の重要性の増大、戦術・戦略の進歩。(おそらく読者がナポレオン時代については詳しいとの想定から、この項の記述は少ない)
・アメリカ独立戦争/十九世紀 172
 戦闘機械の登場。ライフル・マスケット銃の出現により、歩兵が長距離火力を所持するようになり、砲術の基礎が変わる。
 植民地戦争の数々。
・第一次世界大戦 174
 【日露戦争があったが、このときはのちに第一次大戦で使われたあらゆる陸上兵器が使われており、またその効果も判明していた。
  しかし、当時にあってこの戦争の意味を理解した者は多くない。何といっても当事者は日本人とロシア人なのだし、連中に何がわかるというのだ?】
 武器の破壊力の増大。新型機関銃等による防御側の優位性、これに対抗するためのタンクや毒ガス、歩兵突撃等。指揮官の時代の終焉。
 近代的海戦の幕開け(潜水艦。飛行機の導入)
・第二次世界大戦 175
 機械化部隊による電撃戦。戦場の広大化(第二次大戦以前の戦争において戦場は直径2マイル程度であったのに対し、第二次大戦では数百マイルになる)。
 空挺部隊と空母の登場。艦艇から数十万の軍隊が現れ、数千の飛行機が一地点に到来する。
 第二次大戦はあまりに多くゲーム化されているため、アイデアが掘り尽くされているようにも見える。
 第二次大戦に対するゲーマーの要求は「単純化」「超複雑化」の2種類がある。
・現代ものゲーム 178
 軍事関係者は予言的ゲームに強い関心を持っている。
・ファンタジー・SFゲーム 180
 ファンタジーやSFゲームは、大抵、骨組が古代や中世で出来ている。
 【ゲーム・メカニクスに関する革新的なアイデアが、ファンタジー・SFゲームで初めて紹介された例をわたしも数多く目にしてきた】
・空戦・海戦ゲームの特殊な問題 181
 空戦や海戦は、個々の船や飛行機にフォーカスしたゲームとして作れば(フライトシム的に作れば)面白いが、
 海戦はコントロールが利かず、空戦は結果が確定的なので、いずれも戦場としての面白みには欠ける。 
5. ウォーゲームの歴史 187
・ウォーゲームの歴史 189
 十七世紀に最初のウォーゲームがチェスから派生し、十九世紀初頭にはプロイセンにより、細部まで組み立てられた初めての現実的なウォーゲームが作られる。
 20世紀初頭に、H.G.ウェルズが「Little Wars」を執筆。
 【第二次大戦までは、ウォーゲームの対象となるものはもっぱら個々の小規模な戦闘であった。より大規模の作戦をシミュレートするとなると、
  計画表と首っぴきで無数のコマをしかるべき時機にしかるべき場所に動かすという、ゲームというよりはむしろ鉄道の時刻表を作成するような作業が要求された。】
 1953年、C.S.ロバーツによる「タクティクス」の草案。
 AHの売上増大の後、60年代のゲーム流通の変化により、取次店の倒産が続出、AHの経営危機から身売り。
 1960年代末、SPIの登場、S&T誌の買収。
 ウォーゲームの全業界推定販売個数(RPGが含まれているかどうか明示されていないが、おそらく含まれている):
  1964: 62000
  1970: 337000
  1975: 743000
  1979: 2174000
 SFゲームは七十年代前半に登場し、七十年代後半の拡大は主としてファンタジー・SFゲームによるもので、加えてコンベンションと雑誌の力も大きい。
・ミニチュア・ゲーム 202
 ミニチュアゲームはボードウォーゲームに比べて複雑であり、規格が統一されておらず、プレイヤー数もボードウォーゲームの一割くらいしかいない。
 また、ミニチュアゲーマーがボードウォーゲームを遊ぶ割合も少ない。
・雑誌 203
 当時出版されていた主要な雑誌の紹介。
・出版社 209
 ウォーゲーム出版社は、概ねゲーマー自身によって経営されている。AHとSPIが中心。
 AHはタイトル数が少ないが(年3個程度)、優れた販売網によりゲームあたりの販売個数が大きく、他の会社が5000~10000個であるところ、その十倍ほどの売り上げを持つ。
 (「他の会社」はおそらくSPIのこと。ホビージャパンによる後書きでは、【小出版社のゲームは、2000部がさばければ成功】とある)
 SPIは年に20個以上のゲームを出す。
 (ホビージャパンによる前書きでは、この「出版社」という言葉自体が、これまでのゲーム会社の概念から外れた新しいものであることを指摘している)
6. ウォーゲーマーの実態 215
 アンケートからウォーゲーマーの分布が紹介されている。
 ウォーゲーマーは高学歴で頭の良い男性であることが(この章に限らず繰り返し)書かれている。
 【年齢の高いゲーマーは(省略)複雑ではないゲームを好み、ゲームに費やす時間も少ない】
 【教育程度の低いゲーマーはより複雑なゲームを指向する傾向にあり、ゲームをする時間も多く、どういうわけか第一次大戦ものを非常に好む】
 【約10%は軍事関係者である】
 【約5%は政府関係の職業についている】
7. ゲームをデザインする(付・『一九四四年:メッツ進撃作戦』ルール) 229
・デザイナー心得 231
 ゲームデザインの10ステップが示される。「資料集め」が存在することを除くと、ファミリーストラテジーの場合とさほど変わらない。
・実際にデザインしてみよう 235
 歴史ゲームのデザインが前提になっている。歴史的出来事を、正確に描くことは前提として、どの粒度で描くかが問題にされている。
 地図のデザイン⇒部隊の仮決め⇒地形効果のデザイン⇒部隊(特にスケール)のデザイン⇒戦闘表のデザイン、と、かなり強いフレームワークに沿った作業になっている。
 ルールについてはテンプレートが存在し、テンプレートを埋めるだけで相当部分を書けるようになっている。
 デベロップメントについては、おおくの部分ではファミリーストラテジー同様だが、ウォーゲームでは詳細な勝利条件を示さない状態でもデベロップメントが行われる、と書かれている。
・ルールの書式について 256
 SPI式のルール文面フォーマットについての説明。
・一九四四年メッツ進撃作戦 259
 サンプルゲームのルール一式。
後記にかえて 284
 ホビージャパンによるあとがき。
 【アメリカには、現在五十名内外のゲーム・デザイナーがいる】
 【日本では、(省略)今日、ともかくも十万人のファンを持つことができるようになってきた】
新しいゲーマーへのアドバイス 286
付録(ゲーム一覧) 301

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