自分だけのボードゲームを作ろう

Jesse Terrance Daniels 著『自分だけのボードゲームを作ろう』(金井哲夫 訳, オライリージャパン 2022=2022) 

原著 Jesse Terrance Daniels『Make Your Own Board Game』2022


 ボードゲーム読書会@高田馬場 第105回 20230224 

プレゼンター:草場純 

ダニエルズ著『自分だけのボードゲームを作ろう』オライリージャパン刊

 ゲームのメカニクスを紹介し、サンプルゲームを付録し、君もボードゲームを作ろうと呼びかける本。装丁は赤をバックに魔法使いの初学者が魔法の本で勉強中の楽し気な絵である。私は子供のころよく見かけた『マンガ家入門』『漫画の描き方』といった風な本を連想した。

 構成は、第1章ゲームは何でできているか、第2章ゲームのメカニクス、第3章ゲームを作ろう、の三章になっている。

 第1章はゲームはコンポーネントとルールとプレイヤーからなっているとする。尤もである。コンポーネントをダイス・カード・ゲームピース(駒)・ボード・タイル・通貨・資源・ツール・タイマー・トークン・プロップ(小道具)に分類している。確かにマンガの描き方ならぬ、ゲームの作り方にふさわしいかも。

 第2章は同様に、ルールをメカニクスに分解して、こんなものがある、あんなものがあると紹介する形になっている。しかし全てのメカニクスを網羅することなどはとてもできないし、ゲームはメカニクスの足し算でできているわけでもないので、違和感を覚えないではない。これは『ゲームメカニクス大全』でも感じたことであり、そもそも対象を同じ軸で分類しているわけでもないので、どうしてもそのような感が残る。一方、概念は名指されることで現前するという側面があるので、メカニクスにつけられた名称は案外重要かも知れない。「この」ゲームメカニズムをダニエルズはメカニクスと捉え「こう」呼んでいるのか、と知るのは面白い。そしてここに訳語の問題が絡む。一例を挙げると、カタンの最初の駒の配置のように順番が行ったり来たりするルールを、我々は何と呼んできただろうか。カタン方式? 私は個人的に牛耕式(それをブーストロフィードニックと言うのを私はこの本で初めて知った)と言っていたが、それをこの本ではサーペンタインと言っている。今後この用語は定着するのだろうか。訳者は普通にカタンなどを遊ぶ一般人らしく、「ゲーマー」とまでは言えない人のようである。するとその訳語が、ゲーマー界隈の人にどう思われるか、というのは興味深い。

 第3章は、カードゲーム・ダイスゲーム・ボードゲーム・ロールプレイングゲームのサンプルミニゲームである。私はダニエルズの代表作と思われる「ハイバーネーション」を今まで聞いたこともなく、作者がデザイナーとしてどの程度の人物かは知らない。だがこれらのミニゲームをやってみれば察しはつくだろう。尤もよいゲームかよりも、よい教材かという視点で評価すべきであろうが。今回は時間がなくて試してみていないが、これをやってみて初めて読了と言えるとも考えられるので、やってみることにしている。本当の報告はその後とすべきかも知れない。

 私にとって新しい知見は(用語以外)あまりなかったが、それはこの本の性格上、ある意味当然のことであろう。しかしこんな本が例えば学校の図書館にあって、子供が手に取ったら楽しかろうとは思う。それで思い出すのは、かなり有名なマンガ家が、マンガ家を志した動機の一つに子供のころ読んだ石森章太郎の「マンガ家入門」を挙げていたことだ。本書は私には高く評価はできなかったが、将来この本を読んで高名なデザイナーになる少年が現れないとも限らない。真の評価はその時に定まるのかも知れない。