雑誌
渡辺龍彦 (ed.) 『Tired Of』Vol.1 (遊と暇 2020)
採録 (#82: 20210326)
雑誌「タイアード オブ」創刊号を読んで /評者:草場純 2021.3.26金
ざっと見て、なんとなく70年代を思わされた。しかし文字がひどく細かくて、年寄りは排除されているという印象だ。やたら英語が出てくるのもどうなんだろうか。しかし、いくつか面白い記事もあり、何より「遊び」「路上」というテーマは大変興味深い。
では、個々の記事を見てみよう。
1.[インタビュー]ストリートプレイのための条件 ―ブリストルの住宅街の路上から―
内容は決して悪くないが、このような試みは日本にもたくさんある。私の近所でも時間になると「馬」を出して路上で遊べるようにする路地がいくつかある。どうしてすぐ外国に範をとろうとするのか疑問を覚えた。
2.[レポート]あたらしい日常のための非日常 ―商店街の風景を塗り替えた地元住民の挑戦―
と、思ったらちゃんと日本の取材もあった。松陰神社前だが、世田谷は茶沢通りとか、羽根木公園とか、実践の積み重ねがある。ここも、住民の創造的な活動で作り上げているのがとてもよいのだが、実際には多くの困難もあり、そこがよく描かれている。
3.[ダイアローグ]余儀なくされた関係が道をひらく ―リビングストリートの思想を訪ねて―
またヨーロッパへ飛んでしまったが、リビングストリートの思想は、個人的に思い当たることがある。その昔、私は友人から「道路には二種類ある」と聞いたことがあった。その友人が言うには、それは「産業道路」と「生活道路」だという。そして「産業道路は道路の両側を分断するが、生活道路は道路の両側を結びつける」とうまいことを言う。当時はなるほどと思ったものだが、その元ネタは、この1963年のブキャナンレポートにあったのかも知れない。ただし、トラフィクロードとリビングストリートと言うより、産業道路と生活道路と言った方が分かり易いと私は思うのだが、どんなものだろうか。
ここで指摘されるもう一つの大切な点は、オーダーとディスオーダーの絡み合いだ。これも規制と開放と言った方が良いとは思うが、両者の葛藤はなかなか本質的だと思う。これは遊び論一般にも言えて、「遊び」を「真面目」に語ろうとすると「遊び」がなくなってしまうのは、しばしば感じられることだ。
4.[インタビュー]身体を通じて都市に刻む ―スケートボーダーのエスノグラフィー
なぜスケートボードを研究しようと思ったのかを、研究家に聞く。
スケートボードの手ごろな大きさ ~一輪車の経験から 路上を小脇に抱えられる。
5.[インタビュー]スケートボーダーに出会った
この記事は面白い。「雑誌」の良さも出ている。ここは、遊びの不思議さを思わせる。
自主的な活動が自主性を奪う。オーダーとディスオーダー再び。ヤンキーの美学。路上の美学。
6.[コラム]アムステルダムの路上に東京を衝突させる遊び
一回はちょっと面白い。ただ続きがあるのか。とはいえ確かに質の違う文化のコラージュにはなっているかも。
7.[インタビュー]見つからない。あと事故らない。
最初の写真は確かに気持ちがよさそう。
次の写真は正面を向いてはダメ。まっすぐ右(または左を)向くべきでは?
8.[フォトグラフとコラム]植物には関係ない。
題名はいいかも。トマソンや路上観察学を思わせる。
9.[エッセー]つついさん
随筆と言うより小説かな。ショートショート
10.[プレイ]ジャスト1シングス
全く面白いとは思えない。なぜ英語なのか。誰に読ませたいのか。
11.[コラム]趣味のささいな でも偉大な芽生えについて
写真を趣味にする人になぜその趣味を始めたかを聞いて回ったのだが、みんなそんなもんだろう。私には一向に面白いとは思えなかった。
12.[コラム]ココロ此処に在らず 第一回インストラクションアートと遊び論、そしてコロナ禍の育児
インストラクションアートについてはよくわからない。TRPGや、「これはゲームなのか展」のようなものか。後半は育児が退屈であるという話。それはは一面の真理だが、そこから多くの女性の内面へと思いを馳せるとよかったのに。ただ私には、筆者が単に遊びの「方法」を知らないだけのように思うが、どうだろうか。
13.[アートワーク]アフター アイ レフト
私には全くピンと来なかった。
14.[ポイス]グッドデイ?
子供に話を聞いてれを記録するのはちょっと面白い。多分、大人が記録を採るために熱心に話を聞いたせいだろう。
15.[テーブルトーク]注釈の多い座談会
これはなかなか面白い。『プレイマターズ』などで展開される遊び論が、確かに展開されているように感じた。遊び論的な観点を見直すにもよいかも。
16.[フォトグラフ]反射する袖幕
プロデュースする人を取材するというのは面白いかも。
17.[マンガ]換気扇
特に面白いとは思えなかった。
18.[ブックス]
ここに紹介されている本はどれも面白そう。(ただし『モモ』はつまらなかった。)
19.[#]「名のない遊び」図鑑
穴埋めにはいいかも。
総じて遊びのアポリアをわきまえつつ、「今」の遊びに焦点をあてているのは面白い。デジタルゲームなどがあまり出てこないのは意図的なものなのかな。