Trammell, Aaron『The Privilege of Play』New York University Press, 2023
第1回 ボードゲーム読書会@高田馬場 #112 / 20230922
プレゼン:いたる
https://youtu.be/uEl1eqVpVWg
第2回前半 #114 202311
https://youtu.be/nArlLTCtdrI
第2回後半 #114
https://youtu.be/r0ZihvObWsE
第3回 #115 202312
https://youtu.be/v91WTHKXArA
第4回 #116 202401
https://youtu.be/UHsksXZDRJA
Analog Game Studies編集長。UC Irvine准教授。
著書にRepairing Play: A Black Phenomenology (The MIT Press, 2023)
ホビーゲーミングの歴史から見るギーク文化における白人男性性の物語
コミコンのようなイベントの人気上昇、マーベル・シネマティック・ユニバースのトランスメディア・フランチャイズ化、ビデオゲームやコンピューターゲームの市場支配、カタンの開拓者のようなボードゲームやダンジョンズ&ドラゴンズのようなロールプレイングゲームの復活など、ギーク文化が今ほど主流になったことはない。しかし、今日、上記のようなゲームが消費されているコミックブックやホビーショップには、BIPOC(Black、Indigenous、People of Color:黒人、先住民、有色人種)ゲーマーが流入しているとはいえ、彼らは圧倒的に白人、男性、異性愛者であることに変わりはない。
The Privilege of Playは、ギーク・アイデンティティの排他的な傾向を理解するためには、それに先立つ圧倒的に白人的な卓上ゲームホビーのコミュニティの歴史を知る必要があると主張する。本書はまず、20世紀初頭に鉄道模型を趣味とする特権的なネットワークが、その後数十年にわたってウォーゲームやロールプレイングゲーム、ボードゲームを中心に発展するシーンの文化的基盤をどのように築いたかを考察する。このような初期のホビイストのネットワークが繁栄できたのは、彼らの余暇の興味と職業上の野心が重なり合っていたからである。しかし、このようなネットワークで個人が個人的・職業的に躍進したにもかかわらず、ネットワークそのものは閉じこもった同質的なもの、つまり白人男性の秘密の遊び場にとどまっていた。
アーロン・トランメルは、60年代、70年代、80年代に、隔離された郊外に住む孤独な白人男性で構成されたゲームクラブが、趣味の出版物を通じていかに強力なネットワークを築き、やがて主流派に躍り出たかを列記する。彼は、初期のホビイストたちがいかに自分たちをアウトサイダーとみなしていたか、そして彼らが確立した白人男性の特権の否定がいかに今日のギーク文化の社会技術的空間を定義し続けているかを教えてくれる。 コンピュータ技術、ゲームデザイン、ポピュラーメディアの発展におけるホビイストの歴史的役割を考察することで、The Privilege of Playは、より包括的なコミュニティを妨げてきた深く根ざした構造的障害を理解するための道筋を描く。The Privilege of Playは、デジタル技術が、より多様な新世代のギークが主役になるための条件をどのように作り出したかを考察することで締めくくられている。
1.鉄道模型と特権のネットワーク
2.アバロンヒルの人種問題
3.ホビーとしてのディプロマシー
4.コミュニティと所属をめぐる騒乱
5.デジタル化するギークカルチャー
6.今日のホビーゲーム
・プエルトリコに関する掲示板での議論
こうした議論は、ギークたちが自分の人種差別に直面することに不快感を抱き、いかに熱心に自分たちの白人性を守っているかを物語っている。
・ホビー概念
卓上ゲーマーは自らをホビーゲーマーと見なし、ゲーミングをホビーと呼ぶ。
ここでのホビーは特別な意味をもつ。ハイキングやキルト、読書、そしてビデオゲームでさえも、この「ホビー」と同じ意味はもたない。
背後に白人男性の歴史があるにも関わらず、「私たち」が同じホビーを共有していること。
ホビーがアイデンティティと所属を意味し、共有させる。
・ホビーはホビーゲームを超えて使われる。
男性の興味を対象とするすべてのホビーコミュニティに対して使用される。
そのジェンダー化された含意は、女性の貢献を取るに足らないものと見なす。
なのでアマチュア無線やラジコン、バックパッキングといったものはホビイストにとってホビーとみなされる。特にそれが「シリアス」な時は。
例として本書第一章では20世紀初頭の鉄道模型趣味を扱うが、ここでこの言葉は、地下室でおもちゃの列車をいじくることが、より広範で、重要で、集合的な仕事に従事していることを含意していた。
ホビーとはつまりホビイストネットワークへの参加であり、そのネットワークは歴史的に白人男性特権の規範を支持してきた。
・ボードゲーム、カードゲーム、ロールプレイングゲームで構成されるホビーゲームは、限定された小売ネットワーク(コミックブック店、ホビーストア等)によって頒布されてきた。
ホビーゲームは産業的なものというより情熱の産物であり、そのことが歴史的に、デザイナーたちに自由を与えてきた。
しかしその代償として、人種的不平等に対する視野狭窄を継続させてきた。
・本書では北米のホビーゲームの歴史が、今日のデジタルメディアにおける白人優位への理解に役立つと主張する。
デジタルメディアはそのボトムアップな参加でつくられることを称賛されることが多いが、その淵源はホビーコミュニティにある。
孤独な白人男性による電話回線を通じたネットワーク形成と、手紙を通じての孤独な白人男性のホビイストネットワーク形成。
これはテック産業とホビーゲームの親和性につながる。
テック産業における白人男性優位なネットワーク形成。
ギークカルチャーへの影響。
・本書はギークとホビイストを同根のものと見なす。
アウトサイダーであること、ポピュラーなメディアとの関わり、テクノロジーに精通することを特権とするギークのアイデンティティ。
こうした領域への関心は、生育環境と関連がある。それは郊外育ちの白人男性の関心だ。
ギークカルチャーはホビーゲームコミュニティで育った。
ギークが自らをアウトサイダーと見なすのは、白人特権の恩恵を受けているにも関わらず、その支配的男性性からは排除されていると感じているからだ。
アメリカの人種差別社会で特権を得ようと自らを白人と見なしたアイルランド系とは異なり、ホビイストは自らを人種主義を超えたものとして、アウトサイダーと定義した。
このホビイストによる白人特権の否認は、ギークカルチャーの社会工学的領域を定義し続けているが、同時に多様性の感覚を抹消し続けている。
白人特権
ギークアイデンティティのアウトサイダー志向は、50-60年代に都市の中心部から郊外へと移住した白人コミュニティの保守的政治性と重なる。
人口動態の同一性(第四章)。
人種差別撤廃政策による特権剥奪の恐怖、そこからくる都市からの白人の逃亡と、「自由な」コミュニティの形成。
↑とギークカルチャー形成の類似性。
特権のネットワーク
ホビイストたちが享受していた社会的優位性は、彼らが組み込まれたネットワーク構造の重要な特徴であった。
年配の男性たちは、ネットワークに参加するために必要な専門的スキルを若い男性たちに教え、指導した。
この師弟制度は本書で観察したすべてのコミュニティ(鉄道模型、ウォーゲーム、ロールプレイングゲーム、ボードゲーム)に当てはまる。
重要なのは、これらのネットワークの一部のノードが、単に知識があるだけでなく、より専門的であったこと。たとえばMITの鉄道模型クラブは、その時代で最も強力なコンピュータとエンジニアにアクセスできた。そして他のホビイストたちと、こうした見識を共有することができた。
こうしてネットワークよる特権はさらに高められていくが、こうした趣味の特権ネットワークは私的で、不可視であった。
このコミュニティは保守的な色彩を帯びている。ホビイストは、誰でも参加できると主張する。その参加は、個人的な成長のための健全なルートになりうると。
しかしこの文脈における包摂とは、しばしば想定された、目に見えない規範を伴う。
コミュニティに参加するファンには、白人性という目に見えない規範が伴うことが多い。
このような場所にいるホビイストたちは、しばしば自分たちのコミュニティへの参加を広げたいと考えている。
しかし同時に、自分たちのコミュニティの規範がどこから来ているのか、なぜその規範が女性や人々にとって困難なのかについて、深い無知を示している
ゲームスタディーズと白人ギークの男性性
主に消費者として理解されるゲーマーとは異なり、ホビイストは生産と消費の境界線が曖昧になるネットワークに存在する。しかし、この重要な違いにもかかわらずゲーマーのアイデンティティの保守的な傾向を理解するには、ホビイストの歴史を理解する必要がある。
歴史的にシーンを構成してきた白人男性プレイヤーの目になぜゲームが「非政治的」と映るようになったのか。
このコミュニティーの構成は変化してきている。しかし、ホビイストの言説は「政治」と「ホビーゲーム」を定義し続けている。
何をもってゲームとするかという、より広範な枠組みや、人種差別や性差別、生活体験がどのように関連しているかという問題意識は、著者がゲーム研究の「第三の波」と呼ぶものを構成している。
第一の波 1990年代の社会のコンピュータ化およびネットワーク技術の普及に支えられた美学。解釈的アプローチと形式主義的アプローチ。ニューメディアをいかに読み解くかという大きな枠の一部。ジャーナルGame Studies、MIT Pressのアンソロジー。
第二の波 2000年代初頭のビデオゲームの市場人気への対応。社会科学的アプローチ。MMO。仮想世界という実験場。
第三の波 ゲーマーゲートと世界的なナショナリズムの復活への反発。ゲームとアイデンティティの再政治化。「ゲーム研究の批判的転回」
ゲームスタディーズの外部 ホビーゲーム
ホビーゲーム・シーンを特徴づけてきた大企業からの自律性は白人特権と結びついている。つまり、ホビイストには、過激で破壊的なゲームを想像し、開発し、プレイする特権がある。
ホビーゲームは「第三波ゲーム研究」の議論に登場してこなかった。
ゲーム研究の分野ではプログラミングの経験とデジタルゲームに主眼を置いた研究が、就職への切符となっている。
「第三波」におけるインディゲームの評価、物質性の政治学への関心は、アナログゲームとの親和性がある。
現代アナログゲームのファンたちの政治的多様性。ギークであるという共同幻想によるもろい連合。政治的議論を避けることによる連合の維持。
保守的な内的緊張。「万人歓迎」の欺瞞。