Playing with Money

Robert Bracey "PLAYING with MONEY" (SPINK, 2019)

採録:

https://youtu.be/CB8x7tOz-00

■本の内容について

序章で本のコンセプトが説明されている。それによれば、「ゲームは現実を反映またはシミュレートしている」というアイデアのもと、特に金銭の面からゲームとそれが反映している現実を見ていく、と書かれており、基本的にはその通りの内容。対象は「現代の(19世紀末パーカーブラザーズ以降の)ボードゲーム」に限っている。経済ボードゲームが出てくるのがそれ以降に限られるため。ただし、その目的に沿う限りでは不要なはずのゲームおたく的記述が大量に含まれている(「Ad-CivのAHのデベロップが気に食わない」とか)。

大英博物館が2019年4月-9月にかけて、この人のキュレーションにより同名の「Playing with Money」展を開催しており、この企画展と連動した書籍。企画展の資料は以下のURLから確認できる⇒ https://www.academia.edu/40493548/Playing_with_Money_Exhibition_Labels_

ただし、企画展では取り上げられていたギャンブルやクジについての記述は無く、つまり企画展との連動は密接なものではない。なお、企画展を2018年に行う予定だったのか、ネット上にはこの本について「2018年、ハードカバー」とする情報も見られる。おそらく誤り。

流れとしては現代ボードゲームの成立から現在まで、という時代の順に書かれている。ただし、各章で言いたいことは(ゲームは現実を反映またはシミュレートしている」という緩い共通項はあるものの)かなり異なっており、また言いたいことの論証が厳密に行われているわけではないので、ひとつの論文というよりはエッセイ集と考えた方がよい。とはいえ、例として持ち出されるファクトの選定や、先行する論文/書籍、インタビュー等のサーベイはしっかりしているように見える。

■著者Robert Braceyについて

(同姓同名の別人が何人もいるので注意)

貨幣学者/歴史学者。イギリス人。専門はイスラム化以前の北西インド~中央アジア。生年不明※。

英キール大学在学中(1998年~1999年頃)にウェブサイト「A brief guide to Kushan History (クシャナ朝の歴史要点ガイド)」を開設(現URL:kushan.org)。2008年より大英博物館 Coins and Medals dept. に所属。著者はCVを公開していないため、それ以前の所属は不明※※。

本書以前に、「Symbols of Power: Ten Coins That Changed the World (力の象徴:世界を変えた10枚のコイン)」(2015)、「Images of Mithra(ミスラの図像)」(2017) の2冊の共著を出している。また、2020年秋には3冊目の共著「Kushan Coins(クシャナ朝のコイン)」の刊行が予定されている。

本書は著者にとって初の単著であり、初のゲームに関する書籍でもある。以上の通り、職業的なキャリアとしては全くゲームとは関係ない人。一方、Boardgamegeekにも2007年からアカウントを持っており(RobertBr)、めんどくさいゲームおたくであることが確認できる。本書の草稿とも言えるエントリー群を、BGGのブログ機能を使って2018年1-8月にかけて書いていたり、それ以前にも、Hiveの戦略についての記事、ボードゲームのでかい箱を切って圧縮する記事(似たような記事を昔書いた記憶がある…)、Lost Battles書評など色々書いている。

BGGに登録されているところによれば、お気に入りゲームベスト4は「1.プエルトリコ、2.Star Fleet Battles、3.Space Dreadnought 3000、4. キャメロットを覆う影」。

※著者は1997-99年に「Keele Wargames & Boardgames Society」ウェブページ(キール大学内ページとしてホストされていた)のウェブマスターを務めており、この時期に同大学の学部生または修士課程の大学院生だったと考えれば、おそらく年齢は40代前半~中盤。

※※2007年出版の論文集「Memory as History: The Legacy of Alexander in Asia」にも論文を1本寄せているので、これに当時の所属が書いてあるかもしれない。

■出版社について

出版社であるSPINK Booksは、コインや切手等専門のオークションハウスSPINK(1666年設立)の書籍出版部門で、貨幣学の学術書を主に出している。一部の本については電子書籍をGoogle Play Booksで売っているが(Amazonには出していない模様)、2020年3月21日現在この本の電子書籍は無い。