シリアスゲームの社会的受容を問う

シン・ジュヒョン, 2024.

『シリアスゲームの社会的受容を問う』福村出版

第一回前半

https://youtu.be/6knWcTdDsjU

プレゼン:いたる

#118 / 20240322

第一回後半

https://youtu.be/6knWcTdDsjU

プレゼン:いたる

#118 / 20240322

ハンドアウト

序章

シリアスゲームとは何か

2000 年代に一般に普及

二つの立場

韓国では「機能」と「効果」を持つゲームという意味で「機能性ゲーム」(狭義的立場)

教育的機能のみに着目し、ゲームの「おもしろさ」、それと「学習」との関係、プレイヤーの環境・文化等との関係との考察欠如 → 「根本的理解の欠如」


シリアスゲームの社会的普及に関わる論点

シリアスゲームの教育的イメージ

韓国におけるゲーム恐怖症 ⇔ アナログ・シリアスゲームは「安全」で「教育的」

ゲームプレイの「場」

ネットカフェ、ゲームセンター ⇔ 教室

仮想空間 ⇔ 具体的な場 非=場所(消費的空間)⇔ サードプレイス


シリアスゲームにおける「おもしろさ」をめぐる問い

「シリアス」と「おもしろさ」との関係

目的とおもしろさの両者を満たす必要がある


シリアスゲームにおける現実の再現と社会的受容

ゲームにおけるリアリティの追求 フラスカ「シミュレーション」

社会認識への影響、社会的なメッセージ

シミュレーションの限界 倫理的・道徳的な論争が続く物事へのシミュレーションの適用

史実や出来事の学習・プレイヤー認識の変化を目的とするシリアスゲームとの不適合


第1 章 韓国におけるシリアスゲームの導入と展開

韓国における教育システムと「ゲーム」に対する否定的認識

受験戦争の苛烈化 → 教育の妨げとなる対象への非難 現代における典型例がデジタルゲーム

ゲームに批判的な保護者の存在のため、家庭でのプレイが困難 → 「電子娯楽室」、「PC房」といった特定のゲームプレイの「場」が生まれ、独特のゲーム文化が醸成

シリアスゲームは上記状況を打破するため、教育効果に特化するかたちで開発された →結果として二項対立的な考えの広まりを生んだ


デジタル・シリアスゲームの歴史的展開

1990 年代以前

電子娯楽室(ゲームセンター)

1980 年代に普及 『スペースインベーダー』『ギャラガ』

青少年に害を与える閉鎖空間であるとの批判 → 規制

教育用PC の普及

1983「情報産業の育成法案」 1995「情報化促進基本法」により、各世代へのPC 普及が政策的に展開

1997 IMF 経済危機を経て、ゲーム産業への注目

1998 「超高速インターネットサービス」 オンラインゲーム市場の急速な成⾧

PC の普及政策では教育効果が喧伝されたが、実際はゲーム目的での活用が多かった

90 年代後半 ゲーム産業の成⾧ オンラインゲームのリリース 『リネージュ』

PC 房の登場


☆ユン・テジン、ナ・ボラ「韓国ゲーム文化史の再構成」(『日中韓のゲーム文化論』新曜社、2024)

1983 年だけで五万台以上のPC が「教育用」として販売されるが、最も人気を集めた機種は大宇電子のMSX であった。……当時、政府の政策としてPC 教育ブームが起き、私設のコンピュータ塾が急増し……違法かつ無断複製の温床ではあったが、初期ゲーマー文化において中心的な役割を果たした。当時、塾には主にMSX とAppleII が置かれていたが、MSXが日本製ゲームを広めたとすれば、AppleII は洋風アドベンチャーやRPG の世界を紹介し、そこからそれぞれ日本派と米国派のゲーマー集団が形成されることになった。彼らはその後、成⾧して、いわゆる「8 ビット世代」とも呼ばれて、1990 年代におけるゲーム開発の人材を構成することになる……この8 ビット世代はきわめて積極的に自分たちの文化を構築していった。……1990 年代の初頭から半ばにかけて、パソコン通信の「ゲーム制作同好会」などが韓国のPC ゲーム開発の人材を養成する重要な役割を果たしたが、その源流にはMSX同好会があった。

1994 年にパソコン通信を通じて、韓国では初となる商用MUD(テキストベースのオンラインアドベンチャーゲーム)ゲームがサービスをスタートする。MUD は米国や日本ではマニア中心に流行したのに対して、韓国ではかなり幅広い層の人気を博した。……多くの韓国人がパソコン通信のチャットに慣れていたこともあり成功を収めたのである。韓国におけるオンラインゲーム台頭の土壌をもたらしたMUD ゲームの人気は、伝統的なRPGの延⾧線上に位置づけうるものではない。それは「チャット」のようなコミュニケーション的要素から開始されたという点において、他国とは全く異なる事情があったのである。そしてそれは後に、社会性・集団性を特徴とする『リネージュ』のような韓国式MMORPGが人気を博する土台を提供したのである。


若者の余暇文化にデジタルゲームは定着していくが、同時にゲームは教育に対立するものとしてとらえられるようになる

「電子娯楽室」のネガティブイメージ → 韓国のゲームプレイの「場」のイメージ

シリアスゲームの登場と韓国のゲーム文化形成への多大な影響


2000 年代

急速に展開した韓国のMMORPG は、多くの批判が巻き起こったため、韓国社会における

ゲーム文化として定着するまでには至らず

ゲーム産業を支援してきた韓国政府は、「機能性ゲーム」に解決を期待

政府支援のもとに、教科学習に適した「機能性ゲーム」が多数リリースされる

「デジタルゲームに対する否定的認識」のため継続されず

教育的効果の重視 「おもしろさ」の軽視


2010 年代

2011 年 「インターネットゲームシャットダウン法」

2014 年以降 アナログシリアスゲームへの関心


アナログ・シリアスゲームの歴史的展開

ボードゲーム房は2000 年代に一度流行、2005 年衰退、近年復興しつつある

ボードゲーム産業の市場規模 1500 億ウォン(2017)

教育特化のボードゲームの需要増大

デジタル・シリアスゲームでは成功事例が少なかったのに比し、アナログでは学術論文のみでなく、雑誌や報道などさまざまなメディアで成功事例が報告されている

教育機関での積極的なアナログゲーム活用 「教科学習」「シリアスゲームジャム」

デジタルゲームとボードゲームのイメージの大きな開き


1990 年代以前

最初の商業的成功ボードゲーム『ブルー・マーブル』(1982) 家庭用ボードゲーム

ボードゲーム企業の出現 玩具店・文房具店で販売 海賊版


2000 年代

最初のボードゲーム房「ペーパーストーリー」(2002)

単に遊技場というだけに留まらず、情報発信地としても認識され、ボードゲームコミュニティの形成に大きく寄与する

戦略ゲームより『ハリガリ』等のパーティボードゲームが房を中心に広がり、現在でも人気

2000-2004、多くのボードゲーム会社が設立される

急速な衰退 MMORPG の黄金期 PC 房との競争


2010 年代以降

80-90 年代ノスタルジアブーム

2016 年- ほぼ壊滅状態だったボードゲームの場の新規開店、専門誌『ボードゲーム』

00 年代ボードゲーム房から10 年代「ボードゲームカフェ」へ

よりカジュアルな場へ 大学付近だけではなく、ビジネス街や地方都市まで

ボードゲーム企業の増加

KABI 韓国ボードゲーム産業協会

ボードゲームイベント 「ボードゲーム・コン」「ボードゲーム・フェスティバル」

デジタルゲームの否定的イメージを提示し、逆説的にボードゲームの効果を強調

教育的ボードゲームの需要の高まり

最近のボードゲームのブームはKABI の活動のように政府主導であり、学習のためのボードゲームの可能性が集中的に議論されるようになった


第2 章 シリアスゲームの社会的受容とゲームプレイの「場所性」

90 年代の「房」文化 人々が集まってコミュニケーションが生じる、もしくはお互いの関心を共有できる「場所」 若い世代からの人気、急速に増加

PC 房 2019 年時点で10480 軒

初期はゲームよりもPC 利用

IMF 危機以降の増加 安価で⾧時間滞在できる / 安価で開業できる

後、デジタルゲームプレイの場へと変化。しかしほかのゲームプレイ「場」の登場もあり、現在は減少傾向(2008 年は2 万軒超)

ゲームプレイの場への評価 否定的・肯定的 非=場所・サードプレイス

実際の社会的相互作用 イメージとのずれ 場所性の再構成


PC 房は仕切りがあり、構造的に完全に開かれてもいないが、パーソナルに閉じた空間でもないといった特徴を持つ。そのため既存の親しい仲間どうしが自分らの交流関係を確認・維持・強化することを可能にする場所であるが、そのこと以上に「ともにいながら」「それぞれの行動」をとっても許される「一緒で別、別だけど一緒」が実現される場所であることが、より若者文化と親和性を深めている。そして、その親和性が、具体的な内実とは無関係に危険性を持つ場としてイメージさせることにつながっている


ボードゲーム房/カフェはそれぞれに仕切られたテーブルに家族や親族、職場の世代を超えた既存の人間関係が持ち込まれ、異なるテーブル間の新しい交流はほぼ必要とされない。こうした家族や職場の人間関係のなかに閉ざされているという特性は、ボードゲーム房が、韓国の青少年が過ごす上で安全性が保たれ、健全な場所であるというイメージを形作っており、そのことがボードゲーム自体の望ましさの一つの要素を構成している可能性がある


☆「韓国ゲーム文化史の再構成」

それまで世界のゲーム市場でとくに存在感をみせることがなかった韓国であったが、『リネージュ』の成し遂げた成⾧は、RPGに関する⾧い伝統をもつ西欧諸国と比べて少なからず驚異的だったと言える。なにより『リネージュ』に熱狂するゲーマーたちのほとんどは、RPGに接したことすらなかったのだ。この爆発的な成⾧の背景には、韓国に特有の社会性や集団性が介在していたともいえるだろう。『リネージュ』という仮想世界で結ばれた社会的関係、すなわちその強い絆は、プレイヤーのアイデンティティにとって重要な価値と意味をもつものであったのだ。

注目すべきは、そのような社会性や集団性がネットカフェというオフライン空間をつうじて組織された点である。当時、数多くのネットカフェは『リネージュ』内で、各グループのオフラインにおけるアジトを自任していたが、その背景には、韓国のゲーマーたちが重視したオフラインでの出会いがあった。街のネットカフェでは『スタークラフト』の大会が開催されることもあった。この時期のネットカフェは、オンラインとオフラインを統合した韓国特有のゲーム文化のなかで重要となる中心的な役割を担っていた。この独特なゲーム文化において「オフライン要素」のルーツは、先行世代の電子ゲームセンターに見出すことができるだろう。


第4 章 アナログ・シリアスゲームの教育現場への普及と「教育的イメージ」

ボードゲームの急速な普及を受け、アナログ・シリアスゲーム・インストラクター養成の短期コースが注目を集めており、業界団体であるKABIでも開講している

養成されたインストラクターを通じて学校からの教育的活用も急増し、学校現場でもアナログ・シリアスゲームの活用への関心が高まり、現役学校教師を中心に活動するボードゲーム研究コミュニティが形成され、広まりつつある


機能性ボードゲームの教育活用

2000 年代以降のボードゲーム会社の急増

近年設立された会社は「ハッピー・バオバブ」や「マンドゥ・ゲームズ」等、積極的に教育的ゲームを展開

企業の多く、またKABIがインストラクター養成コースやワークショップを開催

ボードゲームの指導を行い、教育現場でボードゲームを活用できる講師

民間資格「教育機能性ボードゲーム指導士資格」1 級、2 級

養成コースは2 日もしくは1 日の短期集中コースとして開講

募集人数は20-30 人程度、参加費用は2 万円程度 ほかの教育プログラムより比較的高額

内容はボードゲームの概論的な講義と実践的活用

1 日目午前中 アナログ・シリアスゲームの機能的かつ教育的価値について講義


1 日目午後 アナログ・シリアスゲームを活用している教育現場での実践事例の説明。その後、いくつかのゲームを実際にプレイ

2 日目 制作能力の涵養

2 日目午前 教育分野に特化したシリアスゲーム活用とデザイン方法についての事例紹介

2 日目午後 グループワーク中心 デザイン講義、ゲーム制作


養成コースは企業と連携した産業となっており、ボードゲーム産業の教育市場の成⾧につながっている。調査した参加者全員が正規の学校教師ではなく、不安定職にあった。ごく近年にアナログ・シリアスゲームが人気になったことで小中学校や政府機関での仕事が増加した。その意味でこのコースは彼らにとって、不安定な経済状況から抜け出す手段とみなされていた。


ここで「教育的」とは「交流」「コミュニケーション効果」の比重が高い

なぜアナログ・シリアスゲームがデジタルのそれよりも好意的に受け止められるのかデジタルのように機能と効果を強調すると、「効果」の観点からゲームの非教育的側面に対する批判が大きくなる。「効果」があっても、その対価が「没入」であれば批判を招く

「交流」の価値を強調するアナログ・シリアスゲームは具体的なスコアといったものに直接的に反映されず、それゆえ好意的な評価を受けやすい


ボードゲーム研究コミュニティの発展

実際の教育現場におけるボードゲーム活用

定期的な会合を行い、教育現場での活用ノウハウの共有、市販のゲームの教育的アレンジワークショップ、新作のテストプレイ等を行っている

最初から教育現場に受け入れられたのではなく、彼らの活動があった

政府主導のデジタル・シリアスゲーム導入との差異

これも同様に、「交流」的要素が教育的要素の大部分を占める


「ゲームを活用する利点は、学生が教育へアクセスするときの障壁が低くなるということである。欠点は、すべてのカリキュラムのテーマとゲームを接続させることは難しく、接続したとしても、深みのある教育のテーマまでは困難であることだ」


アナログ・シリアスゲームを活用することで効果を発揮できるのは、科目教育において実施する「ワークショップ」、すなわち協同作業の場面であり、一人で積み重ねる必要がある「学び」全般ではない

にもかかわらずアナログ・シリアスゲームの「教育的」活用がすべての科目や分野に万能であるかのように喧伝されており、そのことが、アナログ・シリアスゲームの効果的な活用に歯止めをかける事態を招いてもいる。