(ボードゲーム読書会 ハンドアウト Nov 2015)
"Game Design Workshop, 3rd Ed.: A Playcentric Approach to Creating Innovative Games"
By Tracy Fullerton (CRC Press, 2014)
[1st Ed: 2004, with Steven Hoffman and Chris Swain]
邦訳「中ヒットに導くゲームデザイン」(ボーンデジタル社刊、2015)
第0回 ガイダンス
著者について
1965年生。
南カリフォルニア大学(USC)映画芸術学部準教授(インタラクティブメディア&ゲーム学科)。
同学Game Innovation Labのディレクター。
2008年に現職につく以前は、自分のゲーム会社 Spiderdance, Inc. を経営していた。
代表作に Jeopardy! Online (1998。同名のクイズショー番組のWebゲーム版),
The Night Journey (2007。啓示を求めてシュールな荒野を彷徨う実験的ゲーム)。
本の大まかな内容
ゲーム制作の教科書。原題の通り、実際にゲームを作りながら勉強するというプロセスを重視している。
創造的なコンピューターゲームを作るアイデアを出し、パブリッシャーを見つけ、チームを組み、作り上げ、出版する、というところまでが射程に入っており、ゲーム会社就職ガイド的なことすら書いてある(第16章)が、メインになるのはあくまでもゲームデザイン。
「ルールズ・オブ・プレイ」等とは異なり、「ワークショップに出て練習問題をこなしていけば最後には君だけのゲームが完成!」というテイク・イット・イージーなアプローチでありながら、行っている内容は過去のゲーム研究を踏まえた
かなり硬派なものになっている。例えば最序盤である第二章では、まずQuakeとGo fishのゲームとしての共通項を挙げさせる練習問題を出した上で、スーツ(ゲームを遊ぶ姿勢を持つプレイヤーの存在)、ホイジンガ(ゲームと非ゲームの境界)に触れ、ルールズ・オブ・プレイ(ゲームの性質についての分類を行った仕事があること)を示してから、この本が主に取り扱うゲーム要素を決め、最後に別の練習問題で、あるシンプルなゲームに存在するゲーム要素を列挙させる、といった具合。
ゲーム研究書そのものを読むことに抵抗のある学生は多いものと思われるが、この方法であれば、それぞれの研究がどのように重要でゲームのどこに絡んでくるものなのか、実感をもって理解できるだろう。
また、本にはデザイナーインタビューが大量に掲載されており、デザイナーがデザイン全体や個別のプロセスについて何を考え何を行ったのか、実例を通じて把握できるようにもなっている(ゲームファンである学生が興味を持続できるように、という側面も当然あるだろう)。
なお、コンピューターゲームの製作を主眼に置いた本ではあるが、プログラムの本ではなく、大部分が実際のところ(プロトタイプと言う名の)ボードゲームをめぐって議論され、かつ、参照すべき優れた実例として、コンピューターゲームと同じくらいの頻度でボードゲームが登場する。
翻訳について
訳者のクレジットは中本浩(ボーンデジタルのCTO)。実際に翻訳を行っているかどうかは不明。
GengoやConyacのような簡易翻訳サービスに丸投げしているものと思われる。
翻訳の品質は最悪と言っても過言ではなく、日本語の体をなしていない意味不明な記述が頻出する。
一方で品質を求めていては損益分岐点を超えないだろうことも容易に想像できる。
原著はKindleやKoboで電子書籍が出ているので、精読の際は不明点を照らし合わせながら読むとよい(が、7000円以上する)。
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パート1 ゲームデザインの基本
ゲームを構成する要素を分類し、一つ一つ説明を加えていく。過去のゲーム研究書に対する参照や言及は概ねこのパートで行われる。当然ながら、すべてボードゲームにも適用可能。
1章 ゲームデザイナーの役割
・ゲームデザイナーとは何をする人か。どのようなスキルが必要か。
・この本の概要。プレイ中心アプローチ(ワークショップ的な形での学習)について。後の章で説明する、ゲーム製作の流れ(ブレインストーミング、物理的プロトタイプ、プレゼン、ソフトウェアプロトタイプ、ドキュメント化、製作、品質保証[QA])の概要。
・著者がゲームにおいて重視すること=革新性、創造性。
2章 ゲームの構造
3章以降で登場する概念の概要的紹介。
・フォーマル要素。プレイヤーの存在、ゲームの目的設定、手順、ルール、リソース、対立、境界、結末。
・プレイヤーを惹きつけるもの。チャレンジ、プレー、前提(テーマ設定)、キャラ、ストーリー。
・ドラマ的要素(後述)。
・ゲームデザインにおける、全体と部分の総和との関係。
・ゲームの定義、定義を超えること。
3章 フォーマル要素
・プレイヤー。数と構造。シングル、n人シングル、1vs1、1vsN、マルチ、Co-op、チーム戦、マルチチーム。
・目的。The Study of Games ("The dimensions of Games")から抜粋。攻略、追跡、レース、整列、救出/脱出、禁止行為、建設、探検、謎解き、出し抜き。
・手順。四目並べの手順、スーパーマリオの操作。練習問題=ブラックジャックの手順を書け。
・ルール。この本ではルールは手順と区別される(コンピューターゲームでの議論があるため。コンピューターゲームではルールの一部は隠蔽される)。オブジェクトの振る舞い、行動の制約、効果の決定。練習問題=ブラックジャックのルールを書け。
・リソース。効用と希少性について。ライフ、ユニット、ヘルス、通貨、行動、パワーアップ、インベントリ、特殊地形、時間。
・対立。ハードル、対戦相手、ジレンマ。
・境界。マジックサークル再訪。具象的な境界について。
・結末の不確かさ。
4章 ドラマチック要素
・チクセントミハイのフローの紹介。
・目標とフィードバック。結末の不確かさと困難な状況の支配の料率。
・プレイ。Sutton-Smith "The Ambiguity of Play" の紹介(プレイと見做せる様々な活動)。カイヨワの4分類。
・プレイヤーのタイプ。競技者、探検家、蒐集家、達成者、ジョーカー、アーティスト、…
・前提(舞台設定)によるゲームの強化。
・キャラクターの代理関係(プレイヤーの代理としての実用的な側面)と共感(愛着)のバランス。キャラクターの自由意志について。
・ストーリー構造をどのようにゲームプレイに組み込むか。世界の構築について。ドラマにおける対立構造。時間経過と対立の強さの変化(ドラマチックアーク)。
5章 システムの力学
・バータランフィによる一般システム理論の紹介(要素同士の関係に着目しながら「全体」の構造を取り扱う理論)。
・システムとしてのゲームと構成要素。オブジェクト、ビヘイビア、関係。
・ゲームの経済。ピットの経済とカタンの経済。市場。メタ市場(M:TG)。
・システムの創発性(集団としての蟻、Conwayのライフゲーム)
・システムとの遣り取り。情報構造。公開、隠匿、ダイナミクス。操作。ポジティブフィードバックとネガティブフィードバック。
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パート2 ゲームをデザインする
プロトタイプをデザインし、テストプレーの反応を集め、コンピューター上でのプロトタイプに移行し、テストプレーの反応を集め、詳細を詰め、ところでこのゲームって面白いんだったかと振り返る。コンピューター上のプロトタイプの話を除いては、ボードゲームでも概ね適用できる。
6章 概念化
・アイデアをどうやって出すか。ブレインストーミングのテクニック。可視化。
・アイデアの改良。実現可能性、市場機会、コスト制約。
・アイデアからゲームへの変換。そのアイデアのゲームとしてのフォーマル要素はどうなっているべきか。
7章 プロトタイプ
・紙のプロトタイプ。海戦ゲームのプロトタイプの作成と改良の例。アップザリバーのプロトタイプと改良。
・FPSのプロトタイプ(という名の70-80sアメリカンスタイルヘクスマップボードゲーム)とその改良。
・コアメカニクスの可視化。ゲームの本質はどれか。優先順位設定
8章 デジタルプロトタイプ 【読書会での取扱対象外】
・デジタルプロトタイプの種類。システム、技術、フィール(運動感覚)、美的要素。
・操作スキームのデザイン、視点選択、インターフェースデザイン、メタファーの選択。
・プロトタイプ作成用ツールの紹介。
9章 プレイテスト
・プレイテスト(面白さのテスト)とQA(バグ取り)とUIテストとフォーカスグループテスト(市場性チェック)の違い。
・反復デザインの重要性。プレイテストは早い段階から行い、どの段階でも行うべき。
・プレイテストの具体的な作法。
10章 機能性、完全性、バランス
・ゲームの細部の詰め。
・機能するか(何も知らない人が座ってプレイ可能か)、内部完全か(不完全性、未定義の場所が無いか)。
・ゲームバランス。支配戦略、支配的オブジェクトが無いか。ポジティブフィードバックがかからないか。
・対称性、非対称性の導入。非対称性の種類。
・要求スキルレベルの調整と動的なバランス調整。
・ゲームの調整について。要素はモジュールで考え、分解して扱えるようにする。一度に一つの変更に限る。
11章 楽しさとアクセス性
・改めて、そのゲームは楽しいか。楽しさの源泉であるチャレンジの種類。
・プレイヤーの意思決定。ジレンマ。ゲーム理論の紹介。
・パズル要素。
・報酬と罰、驚きの存在、前進している感覚。
・楽しさを台無しにする物。操作単位が細かすぎること。停滞。乗り越えられない障害。恣意性。予測できてしまうこと。
・アクセス性。プレイヤーは遊んで欲しい所にたどりつけるか。ユーザビリティテスト。
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パート3 ゲームデザイナーとして働く 【読書会での取扱対象外】
複数人(しばしば大規模になる)のチームを組み、パブリッシャーを見つけてファンディングを行い、プログラムを開発し、市場に売る、という、商業コンピューターゲーム製作の世界を前提としたノウハウの諸々。面白い話が多いが、ボードゲームとは概ね関係ない。
12章 チーム構造
・コンピュータゲーム製作における各役職の役割。デベロッパーとパブリッシャー。
・チームの大きさと構成、チームビルディング、コミュニケーション。
13章 開発のステージと手法
・コンセプト(計画、予算)->プリプロ(プロトタイプ、技術要件等)->製作->品質保証->リリース->メンテナンス
・アジャイルプロジェクトの方法論
14章 デザインを伝える
・可視化のツール。フローチャート、コンセプトアート、表、テキスト。
・設計書(デザインドキュメント)に書かれているべきもの。
15章 新しいゲーム業界を理解する
・コンピューターゲーム業界のサイズと動向。ジャンルごとの最近の流行(この本ではこの種のことはここ以外にほとんど出てこない)
・主要なパブリッシャーの紹介
・ゲーム出版における主要な要素。契約、ライセンス料などの具体的な数字。マーケティングと販売。小売価格の内訳。
16章 自分とアイデアをゲーム業界に売り込む
・ゲーム業界就職ガイド
・アイデアの売り込み方法。何を用意すべきか。
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採録 第一回(1-2章) https://youtu.be/u5zhiKmu0lk第二回(3-4章) https://youtu.be/BpWdgtkN0zc第三回(5章) https://youtu.be/BS1NBaCtYQQ第四回(6-7章) https://youtu.be/SzFuL5CPJkM第五回 (9章) https://youtu.be/nIQTZGaO5NQ第六回[終] (10-11章) https://youtu.be/MC8PXXJpSzc